洋電タイムスYoden Times
97号 - 2017年 夏号 -
【豆狸の寝言】
「タクシー乗り場での出来事」
伊丹空港から、沖縄へ行くことになった。
伊丹空港へは阪神高速の環状線で行くのだが、あいにく改修工事のため通行止めになっている。迂回する方法もあるにはあるが、この方面への道はいつも混雑するので、到着時間の予測がつかない。車をあきらめ、電車で行くことにした。
JR伊丹駅まで電車で行き、そこからタクシーに乗るのがいちばん速いと聞いてそうしたが、伊丹駅で電車をおりると、左右二つの出口がある。ちょっと迷って、多くの人が向かう左へ出ることにした。ところが、タクシー乗り場が見当たらない。
一瞬、出口を間違ったか、と思ったが、反対側へ戻るのも時間がもったいない。どうしようかと思っていると、タクシーが一台やってきた。手をあげて止めようとしたが、スーッと行ってしまった。
しばらくすると、また一台やってきた。手をあげると、こんどは止まってドアを開けてくれた。
行き先を告げ、やれやれと思っていると、タクシーが止まった。まだ八〇メートルも走っていない。何かあったのか。
すると運転手さんが振り返って、
「お客さん、あの一番前に並んでいるタクシーに乗ってください」
見ると、ロータリーになったところに、タクシーが十数台並んでいる。
ようやく私にも事情がのみ込めた。タクシー乗り場は高台にあり、駅の二階から陸橋を渡っていけるようになっていたのである。
それはともかく、料金を払おうとしたが、運転手さんは受け取ろうとしない。礼を言って、最前列のタクシーに乗った。
しかし、先ほどの運転手は、なぜあのまま伊丹空港まで行かなかったのか。不思議に思ったので、あとで乗ったタクシーの運転手さんに聞いてみた。規則はないが、運転手仲間の暗黙の了解事項であるという話だった。
長い間かけて決めた規則でさえ守られない今の世の中で、規則にもなっていない了解ごとを守る人たちがいる。
そう思うとなんだかうれしい気分になり、おかげであまり好きでない空の旅も、苦にならず過ごすことができた。
(2003年1月執筆 三原幸二)
【第40回 洋電社オープン】
平成29年6月5日 『春日台カントリー倶楽部』