洋電タイムスYoden Times
98号 - 2018年 新春号 -
【豆狸の寝言】
「2000年の年の暮」
タクシーの運転手さんに話を聞くと、景気動向の一面がよくわかる。親父がよくそうしていたので、私も時々、「もうかりまっか」と聞いてみる。
先日、関西空港から自宅までタクシーに乗った。ちょうど空港からのシャトルバスが出たあとで、一時間ほど待たなければいけないので、少し張り込んで乗ったのである。礼儀正しい運転手さんだった。運転席の計器類の横に、「80km/h即退社」と書いたステッカーが貼ってある。
タクシーが高速道路に入ると、うしろの車に次々と抜かれていく。そのうちに、運転手さんがポツンと言った。「お客さん、お急ぎですか」
「家に帰るだけだから、急がない」私がそう答えると、
「じつはうちの会社では、ここに貼ってあるように、80キロ以上出すとタコメーターに記録されて、即刻クビにされるんです。まことに申し訳ありませんが、お許しください」と言った。
私も安全運転のほうがいい。「気にしないように」と答えた。ホッとしたらしく、運転手さんは、こんな話をしてくれた。
先日、伊丹空港まで行くお客を乗せたが、今日のように、制限速度で走っていた。飛行機の搭乗時間が切迫していたらしく、急いでくれと言おうとしたが、そのとき「80km/h即退社」のステッカーを見たのだろう。「80キロ以上出せないなら、なぜ乗る前に言わないのか」と怒りだした。
運転手さんのほうも、「そんなに急いでいるのなら乗る前に言ってほしかった」とは言わなかったが、そんな気持ちで一杯だった。悪いことに、道路が混んでおり、お客さんのイライラはつのる一方だった。
運転手さんは、そのとき、クビになってもかまわない。お客さんのために何度アクセルを踏み込もうと思ったかわからない、と切々とした声で語った。
聞けば、運転手さんは、今の会社に入って一週間目だという。この実直そうな運転手さんの頭をよぎったのは、アクセルを踏み込むのは簡単だが、そのあとは、また次の職を探さなくてはいけない、ということだったかもしれない。職探しにさまよっている自分の姿を思い浮かべたのかもしれない。
お客さんの要望は聞きたいが、しかしクビにはなりたくない。そう運転手さんが思うほど、今の不況は深刻である。
多分そのせいで、最近は感じのよい運転手さんが多くなったように思う。タクシー会社の選別が厳しいのだろう。
不況の荒波がこの業界にも押し寄せていることを感じながら、大阪近辺の道に不案内の運転手さんを、私は不安な気持ちで見送った。
(2001年1月執筆 三原幸二)
【第50回 奥様研修会】
平成29年9月13日~14日 淡路・徳島方面 「ホテルニューアワジ」
【平成30年度 展示即売会】
平成29年10月13日~14日 大阪(東、西、南、北、特販、堺、八尾、平野)
平成29年10月28日 和歌山(新宮)